2017.10.26-29 南から北へ22

バスターミナルで待っていると、中国系の団体旅行客がやってきて、蒸し場に群がっていた。どうやら蒸し場で調理されたゆで卵とお茶が振る舞われているらしい。みなさんとくに感動もなく飲み食いしていたが、確かに調理方法が特別なだけで出来上がるものはあまり変わらないはず。単にゆで卵とお茶を野外で飲食しているだけなので、自分が食べたとしてもそうだろう。おそらくこの辺の宿の夕食では、「蒸し場」で調理したからより美味しい、ということがはっきり伝わるものが出されているはず*1だが、それがどんなものかは想像がつかない。ちなみにこの団体客は近くのホテル大自然*2に吸い込まれていていった。

杖立温泉にあった蒸し場
杖立温泉の蒸し場

夕闇が迫ってきて、向かいの土産屋も店じまいを始める頃合に、折り返し最終の日田バスセンター行となる杖立行の日田バスがやってきた。降車した客はわずか1人だった。

2017.10.27[Fri]
杖立17:00→日田バスセンター17:48
日田バス、¥1,030、23.2km

日田バスセンター行 杖立温泉にて
日田バスセンター行(後ろの蒸気は蒸し場からのもの)

日田へ向かう最終のバスだが、こちらも本日最後のバスだ。自分たち以外に利用者はおらず、この状態は終点まで続いた。バスを降車するまで他の乗客がまったくいないというのは、佐多岬をスタートして以来初めての事態だ。5時ちょうどにバスは発車し、すぐに大分県へと入る。振り返ってみると、今までは気づかなかった大きなホテル「つえたて温泉ひぜんや」が、まるで巨大客船が杖立川に停泊しているようなかっこうで屹立しているのが見えた。熊本県側から杖立温泉に入るのと、大分県側から入るのとでは、受ける印象がこうも違うのかと驚くくらいの立派さだった。

県境を越えたバスはすぐに松原ダムが造り出す人造湖である梅林湖沿いを進み、ダムの堰堤を渡ったあとは薄暗くなった大山川*3沿いを進み、日田の駅前にあるバスセンターへと走る。走行中、まったくバス停のアナウンスがないが、運転士はバス停通過のたびに操作ボタンを押しており、運賃表も適宜変わっているので、放送機器が故障しているようだ。そんな話を松本さんとしたところ、その後運転士が肉声でアナウンスを始めてしまい、非常に申し訳ない気分になる*4

日田市街が少々混んでいたせいか、数分の遅れで日田バスセンターに到着。日田市が思ったよりも都会だったので驚く*5。今日の宿泊先「パークインサトー」は駅からちょっと離れているので、夕飯する場所(というより飲み屋)を物色しつつ宿へと向かう。10分ほど歩いてホテルに到着、妙に甲高い声のホテルマンに迎え入れられ、ツインルームへ。施設はそれほど新しくはないが、小奇麗な感じで、喫煙室なのに臭いはほとんどない。値段の割にはいい感じだ。

兎にも角にも腹ごしらえだ。道すがらいくつか目星をつけ、さらにホテルにあった食べ歩きマップを確認したうえで、一番近そうなところにある焼き鳥屋「寿家本店*6へと入る。これが最近巡り合えていないくらいの当たりだった。松本さんが内臓系がダメとのことなのでそれに合わせ、なぜかキノコを中心とした注文が繰り返されたが、おかげで焼きシイタケにカボスが最高なことに気づいてしまった。調子に乗ってしこたま飲み、前日の夜行疲れもあってかすぐ寝てしまう。

寿家本店の鳥天
鳥天も美味しかった


*1:ハードルを高くしすぎて、逆に潜り抜けられている気がする。

*2:ホテル大自然、すごい名前だ。「12人の優しい日本人」に出てきた居酒屋大自然(焼うどんとたこ焼きが旨い)を思い出した。

*3:これまでの杖立川の別名。このあと筑後川となって有明海に注ぐ。

*4:そもそもこちらは終点で降りるつもりなので、アナウンス自体なくても問題なかった。

*5:というか、今日通過してきたルートにそれほど大きな町がなかったことが、そういう感想になったのだと思う。

*6:リンク先のページよりもYouTubeの動画(日田:焼き鳥の寿家本店)の方が充実している稀有なお店だ。

2017.10.26-29 南から北へ21

空はいつの間にか厚い雲で覆われていて、天候は悪化傾向にある。風も幾分冷たくなってきたようだ。台風が近づいているので、明日以降の天気には期待していないのだが、今日ぐらいはなんとか持ってほしいものだ。

2017.10.27[Fri]
阿蘇駅前13:40→杖立15:03
九州産交バス[7]、¥1,120、40.9km

阿蘇駅前に停車する杖立温泉行
杖立温泉行

利用者数を考慮してか、ずいぶん小ぶりなバスがやってきた。行き先表示が「杖立温泉」となっているが、「杖立」行で間違いなさそうだ*1。乗車時間は1時間半ほどであり、距離もけっこうあるようだが、このサイズのバスで済む程度の利用しかないのだろう。阿蘇駅から乗ったのは自分たちを入れても3人だけだったし。

バスは駅を出て跨線橋を越えると、まずは内牧温泉方面を目指す。基本的には国道212号を進むが、ところどころ旧道を経由して集落の中へ入っていく。が、特に乗降があるわけでもなく、淡々と内牧へ近づいていく。内牧では1人乗車。乗客4人と運転士1人で外輪山越えとなる。

はな阿蘇美入口の先で国道212号に戻り、すぐに急坂を駆け登るようになる。これ以降、バス停の間隔が広くなり、住民がほとんどいないエリアとなる。はな阿蘇美入口から次の集落となる馬場までの所要時間と料金をまとめてみるとこんな感じだ。

バス停 所要時間(分) 運賃
はな阿蘇美入口 - -
キャンプ村入口 0:08 ¥260
大観峰入口 0:12 ¥330
茗ヶ原入口 0:14 ¥350
笠松 0:21 ¥540
馬場 0:27 ¥650

このバスは初乗り運賃が150円のようなので、いかに運賃がうなぎのぼりなのかが分かると思う。大観峰入口までで山登りは終了、乗降はないが時間調整のため少々停車し、上り坂でため込んだ後続車を解放する*2大観峰入口以降は、でこぼこした草原のような眺めの中を進む。途中、ぽつりぽつりと観光客向けの店がある程度で、純粋に民家と呼べそうな建物は馬場まで見ることはなかった。


茗ヶ原入口~唐笠松間の景色

馬場から先に進むと、すぐに南小国町の中心街となる。今回は通り抜けるだけだが、こちらには黒川温泉や満願寺温泉などの魅力的な温泉があり、一度は来て泊ってみたいところだ。南小国の小さな市街地を抜けてまた国道212号に復帰すると、今度は小国町のテリトリーへ。さきほどの南小国町よりも一回り大きな感じだが、それでもこじんまりした雰囲気だ。小国高校前阿蘇駅から乗車した人が、おぐ老人保健施設内牧から乗車した人がそれぞれ降車し、今回の旅で初めて「自分たちだけが乗客」になる。それが何かの合図になったのか、突然運転が荒くなり、前よりも飛ばすようになった*3。小国町の市街地を抜けた後は快調に進み、終点の杖立へ到着。ほぼ時間通りだった。 杖立では2時間ほどの待ちとなる。せっかくの温泉だ、まずは温泉街をうろつきつつ、共同浴場を探すことにした。

杖立橋より杖立川下流を望む
杖立温泉

弘法大師の短歌が地名の由来となっている杖立温泉は、100℃近い湧出温度の塩化物泉だ*4。以前は歓楽街を持つ温泉としても栄えていたらしい*5が、現在は大きいホテルが2つと、あとはこじんまりとした旅館ばかりのさびれた雰囲気になっている、個人的には好みのタイプの温泉街だ。ここは「こいのぼり祭り」が有名だが、Googleマップの航空写真を見るとちょうどそのころに撮られた写真のようで、杖立川*6を鯉のぼりがたなびいている。


鯉のぼりのいる杖立温泉

バス停のあった岸の対岸に行くと共同浴場「御前湯」があると書いてあったので、杖立川を渡って共同浴場御前湯」へ向かう*7。雰囲気の良い、狭い路地をくねくね進むと奥まったところに御前湯はあった。200円を払って、誰もいない湯船へ。温度が高いと聞いていたがそれほどでもなく、また共同浴場の天井が高いせいかあまり蒸し暑くもなく、非常に快適だ。松本さんはタオルを持ってきてないとのたまう*8ので、仕方なしにタオルを1枚謹呈する羽目に。


杖立温泉 御前湯(写真を撮り忘れたのでストリートビューで代用)

30分ほどのんびり浸かった後は、近くの杖立薬師堂で涼みつつ、猫と戯れる。まことに有意義な時間だ。

杖立薬師堂にいた猫
杖立薬師堂にいた猫

その後はバス停へとゆっくり戻ったが、それでもまだ1時間ほどある。周辺を散歩すると、以前より松本さんが言っていた「この辺では石の彫り文字を金色に塗るようだ」が見つかったので、写真に収めておく。どのような意味があるか分からないが、このあたりはこういう風習があるようだ。ちなみにすべてが金文字ではなく、表のみだったり、裏も横もすべてだったり、まったく塗ってなかったり、といろいろだ。さすがに墓石などもそうなので、おいそれと聞ける話でもなく、疑問は疑問のままだ。

杖立温泉で見かけた「金文字」の杖立皇大神宮
杖立温泉の「金文字」

内牧温泉にあった「金文字」の慰霊之塔
内牧温泉の「金文字」

翌日、日田市内の寺の境内にあった「金文字」の墓石群
翌日、日田市内で見かけた「金文字」群


*1:九州のバス時刻表産交バスのサイトで調べると、「杖立」としか表示されないから、バス停は杖立が正しいはず。ただ、行き先表示としては杖立温泉のほうがイメージしやすいのも事実。要はバス停の名前を変えれば良さそうだが、それはそれで手間と時間とお金がかかる、ということでの現実解なのかもしれない。

*2:個人的にはこのような後続車のことを、グラディウスのそれになぞらえて「オプション」と呼んでいる。このときのオプションは10台以上あったと思う。

*3:おぐ老人保健施設バス停でバス待ちの老人に数分絡まれていたのが理由かもしれない。

*4:wikipedia:杖立温泉より。

*5:地域は違うが、「歓楽街を持つ温泉」というのを卒論で扱ったので、今でもこの言葉を見るとつい反応してしまう。

*6:筑後川の上流部。

*7:後で調べたら、ここ以外にも共同浴場や露天風呂があったようだ。バス以外の事前調査を怠りすぎである。

*8:温泉場で乗り継ぎ2時間待ちなら、当然こうなることは予想できたはずだが。

2017.10.26-29 南から北へ20

肥後大津駅は思ったより賑やかな駅だった。バスの着いた南口は最近整備されたばかりらしく、ロータリー*1や待合室も新しく輝いている。乗り継ぎ時間があまりないのと、万が一空席が少なくて乗車できないというのを避けるため、早めにバス停に並んでおく。日差しはいよいよ強く、暑いくらいだ。こういう天気だと欧米系の人はすぐTシャツとかになるよねえ、なんて話を松本さんとしていると、事実そんなカップルがいて、しかも英語で話しかけられてしまう。どうやら同じバスに乗るらしいことは分かったが、それ以上はよく分からない。かたや松本さんは割と英語が達者のようで、いろいろ分かったようだ。ともかく、そんな外国人と一緒に並んでバスを待つ。

これから乗るバスは大分行のやまびこ号だ。ただ、予定の時間になってもなかなかやってこない。別方面のバスは容赦なくやってくるので、外国人に「This?」と聞かれる都度「No!」と伝えるのが可笑しくもあり、煩わしくもある。やまびこ号は約10分の遅れでやってきた*2。すでに25人ほど乗車しているが、大津駅南口で待っていたのは10人くらいだったので、問題なく乗れた。

2017.10.27[Fri]
熊本駅前(発)~大津駅南口11:45→阿蘇駅前12:38~県庁正門前(行)
九州産交バス/大分バス やまびこ号、¥800、28.7km

やまびこ号大分行 肥後大津駅にて
やまびこ号大分行

朝から数えて5本目のバスは大分行の特急バスだ。現在、熊本と大分を結ぶ鉄道(豊肥本線)が地震の影響により肥後大津阿蘇間で運休中であり、当初はこちらの代行バスの利用を考えていたが、主に地元の学生利用のお客さまの通学支援のため運行しております*3とのことで、日中時間帯と日曜祝日の代行バス輸送は行われていない*4。そのおかげなのかやまびこ号の利用者が増加しているらしく、増便が進んで現状は9往復が運行されている*5

ただこのやまびこ号も、阿蘇大橋付近の大規模な土砂崩れによって迂回を余儀なくされており、ミルクロードと呼ばれる県道339号を経由して阿蘇市へと入っていくことになる。阿蘇市側の下りが特に険しく、冬場凍結したら大変そうな坂道だった*6カルデラに入ってしまうと、ほぼ平坦な道なりで赤水駅へ到着、さきほどの外国人が降りていった。アーデンホテル阿蘇まで進んだ後は折り返して、大分方面へと進む。乙姫ペンション村入口*7カドリー・ドミニオンと、アーデンホテル阿蘇も含めて不思議な名前のバス停をいくつか越えると、大津であった10分遅れのまま阿蘇駅となる。通路を挟んで隣に座るおっちゃんが「トイレはまだか?」*8なんて聞きつつもそもそしているが、トイレが心配ならロング缶のビール開けるなよ、と心の中で突っ込んでいると阿蘇駅に到着。ビール缶を羨ましそうに眺めながら降車する。

ここまで30分以内の乗り継ぎで進んできたが、次のバスまではしばらく時間があるので、食事を済ませておきたい。駅近くにあったラーメン屋(夢の湯ラーメン)で昼食。松本さんはとんこつラーメン大盛、こちらはチャーハン定食。ラーメンの麺は九州っぽいやつではなかったので残念だったが、定食はチャーハン+ラーメン+餃子3つ+サラダ+煮物+漬物と相当なボリュームだった。何とか平らげて、駅へ戻って次のバスを待つ。


*1:立派なバイクが飾られていた。付近に本田の熊本製作所があることから、その関係と思われる。

*2:個人的な感覚では、10分程度の遅れなどバスでは良くある話だと思っている。

*3:ちなみにこの情報、JR九州のトップページのお知らせにはなく(過去のニュースリリースにも見当たらない)、トップページ最下段のエリア別お知らせ情報~熊本エリアにある、新着情報の中のお知らせ「【平成29年5月22日以降】豊肥本線一部区間バス輸送(肥後大津駅~宮地駅)について」に掲示されている。

*4:なお、「災害に伴う運行状況のご案内について」を見ると、肥後大津阿蘇間には代行輸送区間の表示はないので、辻褄が合っているといえば合っている。

*5:これは今回に限る話ではなく、wikipedia:やまびこ号 (特急バス)を見ると、1990年代にあった集中豪雨による豊肥本線不通時には最大12往復にまでなったと書かれている。

*6:いくら九州でも山間部なら雪も降るし、凍結もするだろう。

*7:ペンションって言葉に縁がなさそうな夫婦が下車した。

*8:前述のWikipediaによると、利用者の多い休前日にはトイレなしの車両が充当されるらしい。